東北の山奥に、鬼が降りてきた。その鬼の名は鉄爪(てつつめ)といい、身の丈二メートル、皮膚は錆のように赤黒く、指先は鋼のように硬かった。鉄爪は鍛冶の技に異様な興味を持つ鬼で、人間の職人を探しては己の力を誇示し、負かしてきた。しかし彼が初めて敗れたのは、谷間の小さな工房を構える老職人・影鉄(かげてつ)との出会いだった。影鉄は七十歳を超えていたが、その手の動きは若者よりも確かで、炉の火は彼の呼吸と同じリズムで揺れた。
鉄爪は影鉄の工房に現れ、挑戦を申し込んだ。「三日三晩、それぞれの刀を打て。優れた刀を作った方が勝ちだ。負けた者は二度とこの地で鍛冶を続けてはならない」と。影鉄は杯を置き、静かに言った。「いいでしょう。ただし、勝敗を決めるのは私たちではない。刀を見た者の心が決める」。鉄爪は笑い、炉に火を入れた。彼の炎は赤く激しく、槌の音は雷のように谷に響いた。影鉄の炉は青白く静かに燃え、槌の音は川のせせらぎのようだった。
「力で打った刀は折れる。心で打った刀は語る。鍛冶師の真価は、完成した刃が何を言うかにある。」
— 影鉄の教え
三日後、二振りの刀が完成した。鉄爪の刀は、見る者を圧倒する迫力があった。刃渡りは人の背丈ほどもあり、刃文は稲妻のように激しく、持つだけで力が漲ってくるようだった。影鉄の刀は対照的だった。普通の大きさで、一見地味に見えたが、光に当てると刃の内部に無数の星のような輝きがあり、静かに見つめていると、なぜか涙が出てきた。村人たちが二振りを見比べたとき、誰もが迷った。そして三人の老人が口を開いた。「影鉄の刀は、見る者の心を映す鏡だ」と。
鉄爪は敗北を認めた後、初めて礼を尽くして影鉄に弟子入りを申し込んだ。鬼が人間に頭を下げるなど、前代未聞のことだった。影鉄は少し考えてから言った。「あなたの力は本物です。ただ、力を使う前に心を整える方法を学んでください」。鉄爪は三年間、影鉄の工房で修行した。鬼の力と人間の繊細さが融合したその刀は、今も古代月の炉の伝説として語り継がれている。対極のものが出会うとき、真の傑作が生まれると、職人たちは今も信じている。