高天原の中心に、神々の炉がある。それは人間の目には見えない、宇宙の裂け目の中に存在する聖域だ。天地が分かれた最初の時代、伊邪那岐命と伊邪那美命が島々を生み出す前、神々はまずこの炉を造った。世界の基盤となるべき力を持つ武器と道具を鍛えるために。炉の炎は宇宙の始まりから燃え続け、それを消すことができるのは、天と地が再び一つになる時だけだという。
神々の炉を守るのは、鍛冶の神・天目一箇神(あめのまひとつのかみ)である。片目しか持たないとされるこの神は、その一つの目で鋼の本質を見抜く力を持つ。普通の鍛冶師は炎の色や鋼の温度を経験で測るが、天目一箇神は鋼の魂を直接読む。どの鉄にどれほどの可能性が秘められているか、何に使われるべき器か、全ての答えがその一つの目に映る。神々でさえ、この神の前では謙虚になると言われた。
「鍛えることは、与えられた形を超えることだ。鉄が鉄であることを拒んで刃になるとき、神の意志が宿る。」
— 天目一箇神の言葉、「神代鍛冶秘伝」より
天照大御神がスサノオの乱暴によって天の岩戸に隠れた時、高天原は闇に包まれた。その闇の中、天目一箇神は炉の炎だけを頼りに鍛え続けた。神々が岩戸の前で祭りを開き、大御神を引き出そうとした夜、天目一箇神が鍛えた八百万の神々の武器が一斉に光を放った。その光が岩戸の隙間から漏れ、大御神の好奇心を刺激したという説もある。炎と光が世界を救ったのだ。鍛冶師の仕事は武器を作ることだが、その本質は光を生み出すことだと、古代月の炉では伝えている。
人間が鍛冶の技術を持つのも、天目一箇神の意志によるものだという。ある時、この神は一人の人間の鍛冶師の作業を高天原から眺め、その誠実さに感銘を受けた。神は夢の中にその職人を呼び、神々の炉の前に立たせた。「汝は人間であるが、その手には神の意志がある」と神は告げ、一つの教えを授けた。それは鋼の温度の測り方ではなく、鉄と心を通わせる方法だった。目覚めた職人は、夢の中で学んだことを現実の技術に変えた。それが、古代月の炉の最初の一打ちだったと言われる。